プロジェクト


シアン耐性酸化酵素 TAO

 

トリパノソーマ原虫は宿主中と媒体中とで形態を変化させ、その間では異なるエネルギー代謝系を持つ。哺乳類の血流中では、シトクロムc酸化酵素の発現は低下し、エネルギー代謝は解糖系に依存する。ATP合成はトリパノソーマ特有のペルオキシソーム様細胞内小器官(グリコソーム)で進行し、その過程と同時にNAD+NADHへ還元される。このサイクルを常に作動させるためにNADHNAD+に再酸化される必要がある。シアン耐性酸化酵素(Trypanosome alternative oxidaseTAO)はNADHからNAD+への再酸化の一部を構成する重要な末端酵素である。TAOは宿主哺乳類には存在しないことから、薬剤標的タンパク質として有効である。

TAOの結晶構造


イソクエン酸脱水素酵素 IDH

 

IDHは、イソクエン酸からケトグルタル酸への反応を触媒する酵素である。IDHは多くの生物種に存在し、TCA回路を構成する酵素の一つである。T. brucei はミトコンドリア内とグリコソーム内にIDHを有するが、TCA回路は機能していないため主にグリコソーム内のIDHがイソクエン酸の代謝を行っている。また、触媒反応の際にNADP⁺とNAD⁺の両方の補酵素を利用できる。これら2つの特徴は哺乳類にはなくT. brucei 特異的であるため、TbIDHgは薬剤標的タンパク質として有望である。

IDH 結晶


L-メチオニン脱炭酸酵素 MetDC

 

MetDCは、ピリドキサール5’-リン酸 (PLP) を補酵素として、L-メチオニン (L-Met) の脱炭酸反応を触媒する。50年以上前に、その存在が放線菌において確認され、その後Dryopteris filix-mas 由来 MetDCCrypthecodinium cohnii 由来 MetDCについて、酵素学的な研究が行われた。これ以降、新たな生物種でのMetDC保有の報告は無く、生理的意義は解明されていない。しかし、最近になって、放線菌Streptomyces sp. 590 由来 MetDCについて研究が進み、MetDCの特徴的な性質として高い基質特異性が明らかとなっている。この性質を利用して、MetDCによる簡便なL-Met定量法の開発が試みられている。

MetDC 結晶構造


ジヒドロオロト酸脱水素酵素 DHODH

 

マラリア症は、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)によって引き起こされる世界三大感染症の一つである。長年の研究および、治療、予防が実施され、死者数は大幅に減少しているが、薬剤耐性原虫の出現やコスト面の問題などにより新規薬剤開発が必要とされている。DHODHは、ジヒドロオロト酸のオロト酸への酸化反応およびユビキノンの還元反応を触媒するフラビンモノヌクレオチド(FMN)依存性の酵素である。生体内においてヒトを含む多くの生物種は、ピリミジンの元となるウリジン一リン酸(UMP)をde novo経路またはsalvage経路によって合成している。一方の、P.falciparum de novo経路のみにUMP合成を依存しているため、DHODHは新規抗マラリア薬の標的タンパクとなり得る。

DHODH/フェルレノール複合体


酢酸:コハク酸CoA転移酵素 ASCT

 

 ASCTは、ミトコンドリアにおいてスクシニルCoA合成酵素(SCS)と共にASCT/SCSサイクルを形成しATPを生産する。宿主のミトコンドリアでは、電子伝達系における酸化的リン酸化によってATPが生産されるが、Trypanosomea brucei のミトコンドリアでは、電子伝達系が消失しているため、ATP生産はASCT/SCSサイクルによる基質レベルのリン酸化に依存している。本研究では、ASCTをこれらの病気の創薬ターゲットとして着目し、治療薬や阻害剤開発を目指し、その立体構造を分子レベルで明らかにすることを目的としている。

 

ASCTの結晶構造


セリンアセチルトランスフェラーゼ SAT

 

近年、抗菌薬で処理した菌体内では、活性酸素が生成され、それが菌の酸化ストレスを誘導し抗菌薬の効果を相乗的に高めていることが明らかとなった。そのため、細菌の酸化ストレス耐性の選択的な減弱は、抗菌薬の作用増強をもたらすと期待される。システインは抗酸化機能を担うグルタチオンの合成原料であり、病原細菌はセリンを出発原料として二段階の酵素反応から生合成している。セリンアセチルトランスフェラーゼ(SAT)はこの一段階目を担う酵素であり、哺乳動物には存在しない。そのため、細菌のシステイン合成経路を標的とした新規抗菌剤の探索が注目されている。

SAT 結晶


グリセロールキナーゼ GK

 

GKは、解糖系においてグリセロールとATPからグリセロール-3-リン酸とADPを生み出す反応を触媒する。しかし、Trypanosomea brucei gambience 由来 GK (TbgGK)および Entamoeba historytica 由来 GK (EhGK) は、この正方向の反応だけでなく逆方向の反応も効率よく触媒することができる。この逆反応により、非常時のATP減少を補っていると考えられている。他生物種GKと異なり、この逆反応を触媒するTbgGKEhGKは抗寄生虫薬のターゲットとなり得る。

TbgGKの結晶構造